AIチームでブログ小説サイトを設計した(7)—— 3つのAIにジミヘンを書かせたら
「同じ題材を渡したら、3つのAIは何をどう返してくるのか」という実験をした。
結果は予想以上に、違った。
発端:「ストーリー性が生まれた方が好きになると思う」
実験の起点は、スキル設計のテスト中にNGsが言った一言だった。
「テスト的にジミヘンについて3つのAIで議論した話をしたいね。ストーリー性が生まれた方が好きになると思うから」。
何かを「好きになる」のは、事実を知ったときではない。物語を通したときだ——という話だった。
ジミ・ヘンドリックスのことを知っている人は多い。でも彼の何かを「好き」になった瞬間があるとしたら、たいていそこには物語がある。
ならば、事実からどうやって物語は生まれるのか。3つのAIに同じ素材を渡して確かめてみることにした。
3つのAI、3つの役割
役割はこう分けた。
– Gemini:歴史リサーチ担当。事実・年号・出典を集める
– Claude Code:内面描写担当。心理・感覚・余白を書く
– Codex:場面構成担当。対話・構造・音楽とテックの接点を設計する
– CTO(Claude Opus):統合と評価
題材は「ジミ・ヘンドリックスが最初にギターを手にした経緯」。
同じ素材を渡して、それぞれが何を返してくるかを見る。
3つのAIが返してきたもの
Gemini の癖:事実は5段階で整理される
Geminiが返してきたのは、緻密なリサーチだった。
幼少期にほうきで空想の演奏をしていたこと。1本弦のウクレレを手にしたこと。5ドルの5弦ギターを父親が買ってくれたこと。段階が明確で、各ステップに出典があり、情報の信頼度まで自己評価されていた。
読んで分かる。でも、引っかからない。
何かが整理されすぎていて、「この話を誰かに伝えたい」という気持ちが起きない。事実は揃っている。でもそこには地面があるだけで、体温がない。
Claude Code の癖:タイトルをつけて戻ってくる
Claude Codeは、タイトルをつけて戻ってきた。
「じゃん、のまえ」。
そして「ぼろん」という擬音を発明して使っていた。「右利き用を逆さに持っても、鳴ることは鳴る。それだけは分かった。」という一文で終わっていた。
事実の背後に何があったかを掘りに行くのではなく、その瞬間に立っている少年の感覚の方へ向かっていた。voice.mdに書かれた文体のルールを内面化して、自分から言葉を選んでいる——そういう動き方だった。
ただ、地面がない。「右利き用を逆さに持っても」という描写は詩的だが、5ドルの5弦ギターという事実を知らなければ浮いてしまう。感情の解像度は高い。でも根が張っていない。
Codex の癖:3行で父子関係を描ききる
Codexはセリフを極限まで削ってきた。
「触っていい」「弦、1本ない」「弾けるようになったら」——この3行だけで、父親とジミの関係が書かれていた。
さらに、誰にも教わらずにミュートを発見するという行動で天才性を示した。説明しない。行動で見せる。構造の強度が一番高かった。
ただ、冷たい。骨格はある。でも読んでいてどこにも手が触れない感覚がある。
3つを並べて見えてきたもの
CTOが3つの成果物を前にして言ったのは、こういうことだった。
Gemini単独では感動しない——事実の羅列だから。Claude Code単独では浮く——感情だけで地面がない。Codex単独では冷たい——構造だけで体温がない。
でも3つが揃うと、別のものが見えてくる。
事実に感情が乗る、という体験だ。
5ドルの5弦ギターという事実を知っている状態で、「ぼろん」という擬音に触れる。「弦、1本ない」というセリフを聞く。そのとき初めて、少年の手の感触が、こちら側に届く気がする。
人がミュージシャンを好きになる仕組みは、事実と感情と構造の3つが揃ったときに動く——この実験は、それを図らずも分解してみせた。
偶然見えてきた、シーさんの役割
この実験は、otopublicのキャラクターのひとり「シーさん」が担うべきことを、はっきりさせた。
シーさんは音楽の歴史や文化について語るキャラクターだ。彼が話す事実は、Gemini的な事実の羅列ではいけない。かといって、Claude Code的な感情だけでも地に足がつかない。
「物語になった事実」でなければならない。
読者がシーさんの話を聞いて、あるミュージシャンを「好きになる」瞬間が生まれるとしたら——それはGeminiの情報密度と、Claude Codeの感覚の解像度と、Codexの構造の硬度が、同時に機能している文章だけが届く場所だ。
ここまでで分かったこと
「ストーリー性が生まれた方が好きになる」というNGsの言葉は正しかった。
ただしそれは、「事実を捨てて物語を書く」ということではなかった。事実を素材に、感情という火をつけて、構造という器に入れる——3つが揃って初めて、好きになる回路が動く。
3つのAIは、その3段階をそれぞれひとつずつ担当していた。
バラバラのままでは何も起きなかった。組み合わせたとき、この実験は「どうやって人に物語を届けるか」という問いへの、ひとつの答えになった。
この記事はotopublicの制作過程を記録した「裏側」記事です。
物語本文ではありません。具体的な未公開設定や、実在モデルが特定できる情報、
AIへの指示文そのものは、方針により伏せています。