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AIチームでブログ小説サイトを設計した(6)―― 最初の一話ができるまで

AIチームでブログ小説サイトを設計した(3)―― 最初の一話ができるまで

設計の話(Part 1)と、実装の話(Part 2)を経て、いよいよ最初の一話を書いた。

このシリーズ第3回は、「書く」プロセスそのものの記録だ。


準備:設定を「決める」前の問い

最初に手が止まったのは、意外なところだった。「主人公は何の楽器を弾くのか」という点だ。

AIに案を出させると、複数の選択肢がそれなりの理由つきで並ぶ。エレキ、アコギ、ベース……。

でも、この段階で人間がやることは「選ぶ」のではなく、何が問いとして正しいか確かめることだ。

「父のお古のギター」という設定から先に決まっていた。

お古、というのは重要な条件で——アコースティックか、エレキか、で使える描写がまったく違う。

アンプなしでそのまま鳴る楽器か、繋いで初めて鳴る楽器か。

日常の場所に「ただそこにある」という存在感は、アコギの方が自然に出る。

アコギに決まったのは、技術的な理由よりも先に「父の部屋の隅に立てかけてある」という絵が

先に見えたからだった。AIはその判断を推薦したが、最後は「この絵の方が信じられる」という

人間の直感で確定した。


もうひとつ、決まるのに時間がかかったのが主人公の動機だった。

「なぜ弾こうと思ったのか」。これが弱いと、一話が成立しない。

「父への反発」「部活のオーディション」「好きな子に見せたい」——どれも物語的には使える。

でも、今回の物語には合わなかった。外側の動機を入れると、音楽への向き合い方が変わってしまう。

残ったのは、「ギター弾けたらどんな気分だろう?」という純粋な好奇心だった。

理由がない、という意味ではない。ただ、理由を説明しきらない。

そのくらいの純粋さが、一話目の語り手には必要だと判断した。


リサーチ:Gemini に頼んだこと

設定が固まると、次の壁に当たった。技術的なリアリティだ。

主人公のヒロは「父のお古のアコギ」を弾こうとして、うまく鳴らせない。

この「うまく鳴らせない」を、どう描写するか。

「音が出ない」では大雑把すぎる。「自分に才能がない」と思い込ませるリアリティには、

具体的な「どんな音がするのか」が必要だ。

ここでGeminiにリサーチを依頼した。

知りたかったのは主に2つ。

ひとつは、長年放置されたアコースティックギターはどんな状態になるか——弦の劣化、ネックの反り、

弦高の高さが初心者の演奏感にどう影響するか。

もうひとつは、ギターを初めて触った人が感じる最初の摩擦——何が難しく、何で諦めるのか、

という心理的なプロセス。

返ってきた素材は、技術的な記述として精度が高かった。ブランド名、年代別の素材の傾向、

弦ゲージの数値……詳細すぎるほど詳細なメモが揃った。

ただ、ここで大事なことがある。リサーチ素材はそのままでは使えない

実在のブランド名や固有の数値を物語に持ち込むと、整合性の検証コストが跳ね上がる。

「その型番は当時存在したか」「そのブランドのギターをそう描写して問題ないか」——

確認しきれない細部が増えると、物語の土台そのものが揺らぐ。

だから技術的な事実は「素材」として参照するに留め、物語に入れるときは架空化・抽象化する。

「死んだ弦の音」という質感は使うが、そこに型番は必要ない。

リサーチの目的は、書き手が嘘をつかないための理解であって、取材した事実を並べることではない。


執筆:ヒロが語るということ

リサーチが終わって、いざ書き始めると、最初の稿はすぐに問題が分かった。

文章が「観察している」のだ。

主人公のヒロが、まるで自分の手元を外から見ているような文章になっていた。

「弦に触れると、思ったよりも硬かった」——これは事実の記述であって、ヒロの体験ではない。

ヒロという一人称の語り手は、内省的で、言い切らない。独白が多い。

その口調から出てくる言葉は、整っていない方がいい。

何度か書き直す中で、「ぼよん」という音が出てきた。

技術的な正しさからいうと、ギターの弦の音をそう形容するのはかなり粗い。

でも、ギターを初めて触った16歳が弦を弾いて「これが音楽か……?」と思う瞬間の

戸惑いは、「ぼよん」の方がずっと正確だ。

テンプレートではない言葉を探す作業は、AI同士のやりとりでは出てこない。

「ヒロならどう感じるか」「ヒロの語彙にこの言葉はあるか」という問いを繰り返す中で、

初めて出てくる。


稿が進んだところで、一行が「入っていた」。

ヒロが父のギターを手に取る場面に、それが前から置いてあった理由を示す一文が入っていた。

これは意図して仕込んだわけではなかった。描写の流れで自然に書かれた一行が、

後から読むと ep002 以降への伏線として機能していた。

物語を書いていると、こういうことが起きる。

設計段階で想定していなかったことが、執筆の中から出てくる。

AIと人間が往復する中でも、それは起きた。

その一行は、当然、抜かずに残した。


ここまでで分かったこと

「設計を決める」と「書く」は、まったく別の作業だ。

設計フェーズでは「何を作るか」を決める判断の速度が大事だった。

でも執筆フェーズで大事なのは、違和感に気づく速度だ。

「この文章はヒロの声か?」「この描写は技術的に嘘をついていないか?」「この言葉は整いすぎていないか?」

AIは初稿を速く出す。でも「これはヒロではない」と判断するのは、今のところ人間の役割だ。

その往復を何度もやって、ep001 は最終稿に近づいた。

次は ep001 を実際に読んでもらいながら、公開に向けた調整に入る。

整合性チェックと、公開前レビューの話は、また別の回に記録する。


この記事はotopublicの制作過程を記録した「裏側」記事です。

物語本文ではありません。具体的な未公開設定や、実在モデルが特定できる情報、

AIへの指示文そのものは、方針により伏せています。