AIチームでブログ小説サイトを設計した(8)—— 情緒ある小説を書く技法を体系化した
ep001〜ep003が書き終わったところで、NGsからこんな問いが出てきた。
「良い文章から技法を抽出して、otopublicの手法として整理しておけないか」と。
起点:気になっていたこと
「情景説明を主人公本人にさせるとか、そういう技巧があると思うんだけど」——NGsの言葉はそこから始まった。
具体的には2つの疑問だった。ひとつは「どうやって情景に感情を乗せるか」。
もうひとつは「感情を直接書かないで伝える方法があるはず」という直感。
後者については特に「心情表現を直接的に書くのを控えたい。リサーチして整理しておきたい」とも加わった。
これは書き方の好みの話というより、otopublicという作品の芯に関わる問いだった。
ep001のヒロの一人称には、「悲しかった」も「嬉しかった」も出てこない。
それはなぜ機能しているのか——書いた側も、完全には言語化していなかった。
調査:AIチームを使ったリサーチ
CTOはまずep001〜ep003の本文を横断的に観察し、どんな表現が実際に使われているかを分類した。
「梅雨に入ってから、部屋がずっとじめじめしてる」——ep001の書き出しの一文が、
典型例として最初に挙がった。雨が降っているという事実を、ヒロ自身の感覚として語っている文だ。
「湿度が高かった」では伝わらないものが、「じめじめしてる」には入っている。
語り手の体が、情景に反応している。
この観察をたたき台に、Geminiに「情緒ある散文の技法」「心情表現の方法」「情報の間接提示」
という3つのテーマでリサーチを依頼した。返ってきた内容は、文芸批評・脚本術・詩の技法など
複数の領域にまたがる語彙を含んでいた。「Show, don’t tell(説明するな、感じさせろ)」という
指針はそのひとつで、それ自体は有名な原則だが、otopublicの3話の中でどう実践されていたかを
照合する形で使うことで、はじめて実装レベルの言葉になった。
体系化:9つの技法に整理された
ep001〜ep003の実例とGeminiリサーチを重ね合わせて、9つの技法に整理した。
一人称情景描写、五感描写、間と余白、天候と感情の連動、自室・身近な場所の使い方、
リズムと文体、情報の間接的な提示、心情表現(感情語を使わない)、シーさんのシーン特別ルール——
この9つが、ai-config/writing-techniques.md として正典に保存された。
体系化のなかで効いたのは、実例との往復だった。
技法として抽象的に書けることより、「その技法はep00Xのどの一文で使われているか」を
確認しながら整理したことで、生きた参照が残った。
たとえば「心情の身体化」——感情語を使わずに行動・しぐさ・物の扱い方で心情を示す技法——は、
「ケースに戻そうとした。でも手が止まった」(ep001)という一文と、
「ギターを布団の横に立てかけておいた」(同)という一文を並べると、すぐに意味が分かる。
「まだ諦めていない」「捨てられないけど仕舞えない」を、ヒロは一言も言っていない。
行動と場所の選択がそれを全部やっている。
9つのどの技法も、既に書かれた3話の中に根拠があった。
気づき:技法は先にあったわけではない
体系化が終わったとき、少し奇妙な感覚が残った。
ep001「掠れた音」・ep002「雨上がり」・ep003「晴れた日曜日」の3話は、
技法を意識して書いたわけではなかった。「ヒロならこう語るだろう」という
一人称の感覚から生まれた文章が先にあって、そこから技法を抽出した、という順序だった。
技法が文章を作ったのではなく、文章が技法を教えてくれた。
これは逆説的に見えるが、実際の執筆プロセスとして考えると正しい。
「一人称で語る」という基本設計——ヒロという語り手が自分の体験を自分の言葉で話す——という
一点が徹底されていれば、情景も感情も自然にその語り手を通って出てくる。
技法はその結果として現れるものだった。
ただし、次の話から違う機能を持つ。
これ以降は、新しいエピソードを書く前に9つの技法を参照することで、
「ヒロの一人称から外れていないか」を確認するチェックリストとして使える。
体系化の意味は、過去を説明することよりも、次への一貫性にある。
ここまでで分かったこと
良い文章の技法は、良い文章を書いてから抽出する。
当たり前のことに聞こえるが、AIと人間が往復する制作では少し意味が変わる。
技法の体系はAIへの指示として機能するものだから、「先に整理してから書かせる」という
進め方の方が自然に思える。でも実際には、3話が書き上がった後にこの作業をやったことで、
実例に根ざした具体的な言葉が残せた。
「じめじめしてる」「ぼよん」「手が止まった」——ヒロの言葉はどれも整っていない。
その「整っていなさ」が一人称の精度だということが、技法として明文化されたのは、
それを実際に書いた後だった。
この記事はotopublicの制作過程を記録した「裏側」記事です。
物語本文ではありません。具体的な未公開設定や、実在モデルが特定できる情報、
AIへの指示文そのものは、方針により伏せています。