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AIチームでブログ小説サイトを設計した(17)—— 同じ一話を、4つのAIに書かせた

同じ一話を、4つのAIに書かせた

Fable 5 が出た。使うかどうかの話が、いつのまにか文体の実験になった。


発端:Fable 5 が出た

2026年6月9日、Claude の新モデル claude-fable-5 がリリースされた。Opus の上位にあたる、現時点での最高性能モデルだ。

このモデルには素性がある。Anthropic が同年4月に発表した招待制モデル「Claude Mythos Preview」と同一の基盤モデルだ。Mythos は世界で40〜50組織のみがアクセスできる限定リリースで、脆弱性発見能力が高すぎるため一般公開が見送られていた。Fable 5 はそこに安全対策を追加し、全顧客向けに展開したもの——機能を削った版ではなく、安全に使えるように仕上げた版だ。

NGsが最初に聞いたのは「このセッションで使いみちは?」だった。用途を整理すると、Fable 5 が本領を発揮するのは「長時間自律的にループするエージェント」や「Opus 4.8 でも品質が足りない複雑推論」——otopublic の日々の作業(小説の下書き、Behind Note、スケジューリング)には、どれもオーバースペックだった。価格も Opus 4.8 の2倍ある。

結論は早かった。今は使わない。

ただ、ここで話が逸れた。「otopublic では使わない」の先に、もっと面白い問いがあった。同じ話を書かせたら、モデルごとに何が変わるのか。


基準を決める:原典「掠れた音」

比較には基準がいる。選んだのは story-01 の第1話「掠れた音」。父のアコギを押し入れから取り出した少年が、何度弾いても「ぼよん」しか出なくて、でも押し入れには戻せない——そういう話だ。otopublic で最初に書かれ、文体ガイド(voice.md)の原点にもなった一話。

この公開版(Claude Code が書いたもの)を原典として、4つのモデルに同じリライトを指示した。Fable 5、Sonnet 4.6、Opus 4.8、そして Gemini。プロンプトも参照する正典も全部同じ。変えたのはモデルだけだ。


4つの方向

結果を読み比べると、方向がきれいに割れた。代表的な3箇所を並べると一目でわかる。

冒頭の第一文 「ぼよん」3回目の受け 結びの雨
原典(Claude Code) 押し入れを開けたのは、別に理由があったわけじゃない。 同じだった。 窓の向こうで雨がまだ降ってた。
Sonnet 4.6 (原典と同一) 同じだった。 (原典と同一)
Opus 4.8 押し入れを開けたのに、理由なんてなかった。 だよな。 窓の向こうで、雨がまだ降ってた。
Fable 5 雨はまだ降ってなかった。でも降りそうだった。 うん。知ってた。 雨の音が、少しだけ強くなってた。
Gemini 押し入れを開けたのは、明確な理由があったからじゃない。 やっぱり、同じだった。 窓の向こうで、雨はまだ、静かに降り続いていた。

ひとつずつ、方向性を見ていく。

Sonnet 4.6 —— 守る。

最も原典に忠実だった。第一文も結びもそのまま。骨格を尊重し、必要なところだけ整える。リライトを「改変」ではなく「保全」として捉えている。原典の声を壊さないという点では、4つの中で一番安全だった。

Opus 4.8 —— 内側で深める。

構造は原典のまま、ヒロの内面をほんの少し掘る。「だよな。」「聞かない。」のような自嘲を足して、諦めの軽さを増やした。原典の「わからなさ」を保ったまま、少年の体温だけを上げた。逸脱せずに深める、という難しいことをやっている。

Fable 5 —— 外から組み直す。

唯一、冒頭の構造を変えた。雨が降る前の停滞から入り、情景を組み立ててから本題へ進む。観察が整理されていて、少年の自己認識が明晰だ。最初に読んだとき、NGsは「少しGemini風でもある」と言った。能力が高いぶん、「本人にもまだわかっていない状態」を、わかる方向へ少し寄せてしまう傾向が出た。

Gemini —— 文学的に盛る。

最も原典から遠かった。「湿気(しけ)ている」とルビを振り、ひび割れを「蜘蛛の巣のような」と直喩で飾る。「才能がいる楽器なのか」が「選ばれた人間にしか許されない楽器なのだろうか」になり、結びの音が「音」から「音楽」へ格上げされる。修辞力は高い。ただ otopublic の voice が避けたい「不自然に文学的」「比喩を大きくしすぎる」方向に、はっきり振れていた。


わかったこと、まだわからないこと

前回、ひとつ留保を立てた。Fable 5 の「Gemini風」は、Fable 5 固有の癖なのか、それともリライトという行為そのものが客観化を生むのか——人間も数日後に自分の文章を直すと、客観的になって整理しすぎる。

4つ並べて、その留保に部分的な答えが出た。リライトの性質だけが原因なら、Sonnet も Opus も同じく整理に倒れるはずだった。でも実際は、Sonnet と Opus は原典の無防備さを保ち、Fable 5 だけが外から構成し直した。 つまり今回の傾向は、リライトの性質より、モデルごとの「指紋」のほうが強く出ている。

ただし、これも一度きりの観察だ。同じモデルでも、別の話を、別の指示で書かせれば違う顔が出るかもしれない。「Fable 5 はこういう文体だ」と言い切るには、まだ早い。言えるのはここまで——モデルを変えると、同じ指示でも文体の指紋が変わる。性能の高低とは別の軸で。

これは otopublic の根っこと繋がっている。このサイトは最初から、物語ごとに違うAIを作家として立てている。文体の癖がそれぞれ違うこと自体を、群像劇の強みに変える賭けだ。今日の実験は、その賭けの前提——「AIごとに癖がある」——を、同じ一話の上で目に見える形にした。

守る Sonnet。深める Opus。組み直す Fable 5。盛る Gemini。どれが正しいという話ではない。otopublic にとって今いちばん近いのは原典を保つ方向だが、別の物語、別のキャラクターでは、盛る力や組み直す力が効く場面もあるはずだ。

次は、別のエピソードでも同じ比較をしてみたい。今日見えた方向が、話が変わっても保たれるのか。それとも話によって入れ替わるのか。そこがわかると、「どの物語をどのAIに書かせるか」の地図が、もう一段はっきりする。


この記事はotopublicの制作過程を記録した「裏側」記事です。

物語本文ではありません。具体的な未公開設定や、実在モデルが特定できる情報、

AIへの指示文そのものは、方針により伏せています。

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