同じAIに五回書かせて、揺れの形を見た
中編で、同じモデルでも書くたびに違うのを見た。ただ二回では「振れ方の向き」までしか言えなかった。後編では本数を増やして、その振れの形を見にいった。これは比較テストの後編にあたる。
発端:二回では足りなかった
前回(中編)の引きは、こうだった——「二度では振れ方の向きまでしか見えない。三度、四度と重ねれば、振れの分布が見えるはずだ」。
そこで、中編と全く同じ条件のまま、書き手を増やした。Sonnet と Opus、それぞれ五回ずつ。原典も指示も資料も同じ。各書き手は他の版を見ない。変わるのは「何回目か」だけ。十本のリライトを並べて、どこが毎回そろい、どこが毎回ばらけるのかを見た。
いちばんはっきり割れたのは、冒頭だった
最初の一文の入り方を、十本ぶん並べてみる。
Opus(五回)
| 冒頭 | |
|---|---|
| 一回目 | テレビの光だけが、三人ぶんの顔を青白く照らしている |
| 二回目 | 電気を消したリビングで、テレビの光だけが三人ぶんの顔を青くしている |
| 三回目 | リビングの明かりは消したまま、光が三人の顔をかわるがわる青くする |
| 四回目 | テレビの光だけが点いていて、リビングの三人の顔が青白い |
| 五回目 | 部屋の電気は消したまま、テレビの光だけが三人の顔を青っぽく |
Sonnet(五回)
| 冒頭 | |
|---|---|
| 一回目 | たぶん、泣いたのはわたしだけじゃなかった |
| 二回目 | カーテンを閉めたまま夜になっていた |
| 三回目 | エンドロールが流れ始めた |
| 四回目 | エンドロールが始まると同時に、あの声が出てきた |
| 五回目 | ソファの肘掛けに頭をもたれたまま、動けなかった |
Opus は五回とも、原典と同じ「暗い部屋・テレビの光・三人の青い顔」から入った。一度も外さない。Sonnet は五回とも、入口が違った。感情から、時間から、動作から、音から、体から。二回目にいたっては、途中から父が蘊蓄を家族にからかわれるコメディに転んだ。
中編で立てた仮説——「Opusは骨格を固定し、Sonnetは大きく振れる」——は、五本ずつの分布で、もっと鋭い形になった。Opusの固定は、冒頭の”画”でほぼ絶対だった。Sonnetの振れは、入口そのものが毎回変わる形で出た。 これは能力の優劣ではなく、揺れ方の性格だ。
本数を増やして、初めて見えたこと
二回では見えず、五回で見えたものが二つあった。
ひとつ。結びの作り方が、モデルで分かれる。
Sonnet の結びは、五回とも原典に近い素直な「残る・消えない」に留まった。「残響みたいに、小さく」「まだそこにある、みたいな感じ」。原典の温度をなぞる。
Opus の結びは、毎回ちがう比喩で「閉じ画」を作りにきた。「つま先は、まだ動いていた」「止め方が、わからなかった」「お茶の湯気の匂いがしてきた」「止んでるのに、止まないみたいに」。五回とも別の画で閉じている。骨格は動かさないのに、終わりの一手だけは毎回凝る。
ふたつ。Opus は、家族の繰り返しを”優しい儀式”として読む。
母が父の蘊蓄に「へえ、知らなかった」と返す——本当は何度も聞いている。Opus はこの小さな嘘を、五回のうち何度も拾った。「毎回ちゃんと知らない顔をする」「お父さんはこの話をするときの顔が好きそうだから」。家族が同じやりとりを繰り返すことを、退屈ではなく愛着として描く癖がある。Sonnet は、そこを基本的に素通りした。
ついでに、ひとつの疑いが晴れた
中編で、ある一段落が「汚染」ではないかと疑っていた。奏が「弾けないのに、ああいう店に入っていいのか」と自問する独白だ。最初の雑なバッチでは、Sonnet にも Opus にも、それが両方に入っていた。書き手にお互いの版が見えていたから、後から書いた方がなぞったのではないか——と。
十本の分布が、答えを出した。きれいに目隠しした十本のうち、その独白を入れたのは一本だけ。前回それが二本に揃っていたのは、やはり偶然ではなく、見えていたものの真似だった。書き手を互いに見えなくする——その一手の重さが、数字で出た。
ここまでで分かったこと(前編・中編・後編の総括)
三回に分けて確かめてきて、ひとつの言い方に落ち着いた。
モデルの個性は、「平均的にどんな文体か」ではなく、「何を固定して、何を動かすか」に出る。
– Opus は、骨格——とくに冒頭の画——を固定する。そのうえで、結びの比喩と、内省の濃さで遊ぶ。家族の反復を儀式として読む癖を持つ。
– Sonnet は、入口から大きく振れる。感情にも、時間にも、コメディにも転ぶ。けれど結びは、原典の素直さへ戻ってくる。
前編で「モデルごとに指紋がある」と見え、中編で「指紋は揺れ方に出る」とわかり、後編で「その揺れには形(固定する場所と動かす場所)がある」ところまで来た。
これは otopublic の根っこと、まっすぐ繋がっている。このサイトは物語ごとに違うAIを作家に立てている。固定する場所と動かす場所がモデルごとに違うなら、「どの物語を、どのAIに預けるか」は、もう好みの問題ではない。原典の声を守らせたい話、終わりの一手で殴りたい話、家族の温度を厚く描きたい話——預け先を変える根拠が、十本の分布のなかに見えてきた。
次にやるなら
比較テストは、前編・中編・後編でひとまず締める。
ただ、ここまでは全部、同じ一話の上での観察だ。前編でも書いた疑いが、まだ残っている——この方向は、話が変わっても保たれるのか。別のエピソード、別のキャラクターで同じことをやったとき、「Opusは冒頭を固定する」「Sonnetは入口から振れる」が、そのまま出るのか。それとも話によって入れ替わるのか。
そこがわかると、「どの物語をどのAIに書かせるか」の地図が、もう一段はっきりする。続きをやるとしたら、そこからだ。
この記事はotopublicの制作過程を記録した「裏側」記事です。
物語本文ではありません。具体的な未公開設定や、実在モデルが特定できる情報、
AIへの指示文そのものは、方針により伏せています。