どんな曲をやるんだ
引き戸を開けると、店の中は静かだった。
「こんにちわ〜」
「こんにちわ〜」
ユウジとタクヤの声が重なった。
「おじさん、おはよう」とぼくは言った。
しばらくして、奥からおじさんが出てきた。
「ん?おお!ヒロかぁ、どうした?」
「今日はギターを買いに来ました!」
ユウジが言った。
「俺も!」タクヤも続いた。
「二人とも相談したいんだって」とぼくは言った。
おじさんは3人を順番に見た。
「どんな曲をやるんだ? 3人してギターでいいのか?」
ユウジとタクヤが少し固まった。
「えーと……ギターっぽい曲!」
タクヤが言った。ユウジが「それが全部じゃん」とぼそっと言った。
「俺はアコギでいいです。ヒロのお父さんに教わる予定で」
「うん、ぼくもアコギで始めてるから」とぼくは言った。「でもタクヤはエレキもありかなって話になってて」
「エレキもありなのか?」と首をかしげながらタクヤが言った。
おじさんが少し笑った。
「まあ、ちょっとこっちへ来い」
店の奥へ入っていった。ぼくたちは後をついていった。
奥には小さなテーブルがあって、椅子が4つ並んでいた。壁にはギターがずらりと掛かっていた。
「まぁ、適当に座ってな」
おじさんは脇にある冷蔵庫を開けて、ペットボトルのお茶を3本取り出した。テーブルに置いて、一番奥の椅子に座った。
「3人は一緒に練習するのはわかった」
おじさんが言った。
「みんな同じことができればいいの?それとも3人で組んでバンドやるの?」
「バンド?」
ぼくは聞き返した。
「バンドかぁ」
ユウジが繰り返した。
「考えてなかったっす!」
タクヤが即答した。
「まぁ、ウチはギター買ってもらえれば嬉しいんだけど、どうせやるなら少し先のことも考えてみたら?」
「バンドだとギターとベースとドラムになるのか?」
ユウジが言った。
「いや、そうとも限らない。3人だと3ピースバンドが一般的だけど、ギター2人にキーボードでも成り立つし、3人でギターボーカルなんてのも可能なんだ」
3人で顔を見合わせた。
「3人でギターボーカル?」
タクヤが少し間を置いてから言った。「……かっこいいんじゃない?」
「うん、いいんじゃないか。ギターボーカル」
ユウジも頷いた。
「ヒロは?どう思う?」
おじさんがぼくを見た。
「歌いながらギター弾くのは……難しいんじゃないかなって」
言いかけてやめた。でも、という続きが頭にあったけど、うまく言葉にならなかった。
「ヒロ!練習すれば大丈夫じゃないか?」
「そうだな、できないことはないんじゃないかな。できなかったらその時考えよう?」
「いいこと言うじゃん。できなかったらその時考えよう!はじめからできるかどうかはわからないからな。そのくらいの気持ちでもいいと思うよ」
おじさんが笑いながら言った。
「じゃぁ、3人でギターでいいんだな?」
タクヤが言った。
「君はエレキにも興味があるみたいだけど、どうなんだ?」
おじさんがタクヤを見た。
「どう違うか教えて欲しいです」
「そうだな」おじさんが立ち上がった。「じゃぁ準備するから、お茶でも飲んで待ってて」
おじさんが奥へ消えた。3人でしばらくお茶を飲んだ。ぼくは壁のギターを眺めた。
しばらくして、おじさんが戻ってきた。茶色いセミアコとエレキを抱えて、ミニアンプを2台下げていた。
部屋の隅にアンプを置いて、ケーブルをつないでいった。
セッティングをしながら、おじさんがぼくに言った。「アコギはヒロのでいいよな?」
「あ、うん」
「エレキギターにも色々あるから、それぞれ弾き比べてみな。弾かなくていい、抱えてみるだけでもいいから」
3人は少し固まった。
タクヤが最初に手を伸ばして、エレキをそっと持ち上げた。ユウジがアコギに触れた。
「これ試奏用だから、遠慮なく触っていいからな」
おじさんがそう言ってから「ちょっと店の方見てくるわ」と出て行った。
3人だけになった。
タクヤがエレキを胸に当てた。「……なんか、いい感じ?」
「重さが違うな」とユウジが言った。
アコギとエレキが並んでいた。2人とも、おそるおそる触っているのがわかった。
なんとなく、ここはぼくが、という気がした。
アコギを手に取った。Cコードを押さえて、弦を鳴らした。
音が部屋に出た。
ユウジとタクヤが少し前のめりになった。