面白いね
引き戸が開いた。
おじさんが入ってきた。後ろに、もう一人いた。
「面白いね、3ピースギターボーカルだって?」
シーさんだった。
「シーさん?」とぼくは言った。
「チワッス!」タクヤが声を上げた。
「こんにちわ」ユウジが言った。
シーさんは部屋をひと通り見た。3本のギターとアンプ2台。ケーブルが床を這っていた。
「練習してたんですか」
「ちょっと、押さえ方を教えてもらってました」ユウジが答えた。
「エレキギターはどうだった?」
おじさんが聞いた。
「凄いっす!」タクヤが前のめりになった。「アンプで音が全然変わって!」
「オレ、エレキにする!」
「おいおい、気が早いなぁ」ユウジが言った。
一同が笑った。
「セミアコはどうだった?」おじさんがユウジに聞いた。
「……もう少し触ってみないとわからないっす」ユウジは少し考えてから答えた。
「そうだな」おじさんが頷いた。
「3ピースでギターボーカルというのは、面白い選択ですよ」
シーさんが椅子を引いて座った。
「3人ともギターでも、変じゃないんですよ。サザン・ロックという音楽スタイルに、ギタリストを3人置くバンドの伝統があって」
「サザン・ロック?」タクヤが繰り返した。
「アメリカ南部の音楽です。レーナード・スキナードというバンドが有名で——3人のギタリストが同時に弾くというスタイルをやっていた。でも、3人が同じことを弾くわけじゃなくて」
「違うことを?」
「曲や場面によって、土台のコードを刻む人、リフや裏メロを入れる人、ソロや——スライドギターというやつで——メロディを弾く人、というふうに分け合うんです。3本がそれぞれ別のことをやって、重なる。お互いの邪魔をしない、というのが大事で」
「……3人が別のことをやってる音が、ひとつになる」
ユウジが静かに言った。
「そうです。チャーリー・スターというギタリストが——ブラックベリー・スモークというバンドのフロントマンなんですが——3人のギタリストがお互いの邪魔をせず、同じフレーズを同時に弾かないこと、それを大事にしているという話があって」
「ブラックベリー・スモーク」タクヤが繰り返した。「なんか、かっこいい名前」
「アトランタのバンドです。チャーリー・スターとポール・ジャクソン、それからベンジ・シャンクスの3人がギターを担当していて——ベンジさんはマンドリンやドブロも持ち替えるらしくて。レーナード・スキナードの伝統を今に続けているバンドのひとつ、と言われています」
シーさんは少し間を置いた。
「3本ギターがあるから出てくる厚みがある。でも、音が大渋滞にならないのは——それぞれが引き算を知っているから、という話があって」
「引き算……」
「歌っているときは他の2人が一歩引く。ソロの時はバッキングに徹する。3人分のレーンがちゃんとある、ということです」
ぼくはアコギを膝に乗せたまま聞いていた。
「……役割が、それぞれにある」
「そうです。3人いるなら、3人分の。誰が土台を支えて、誰が色を添えて、誰が歌を引き立てるか。それが決まってくると、音が変わってくるんです」
「……」
うまく言えなかった。でも、何かが頭に残った。
「まぁ、まずは一音ちゃんと出せるようになってからだけどな」
おじさんが言った。
「そうっすね」タクヤが素直に頷いた。「でも!オレはエレキでいきます!」
「おいおい」ユウジが静かに言った。
また笑った。
シーさんがおじさんを見て、少し微笑んだ。