夏休みに1曲
スマホの画面を見た。タクヤが既読になっていた。ユウジも。
8時を少し過ぎていた。二人とも家を出ているなら、そろそろ来る頃だ。
あのギターを持ち帰ってから、もう3日が経っていた。
土曜日も日曜日も、3人でお父さんに教えてもらった。
コードのこと、右手の振り方、ピックの角度。ぼくが一人でさわってきた時間とは全然ちがう密度で、次々に言葉が来た。メモ帳が足りなかった。ページを変えてまた書いた。それでも追いつかなかった。
でも、追いかけたくなった。
「ありがとうございました!」
日曜の夕方、3人でそろって頭を下げた。
「おお!」お父さんが笑った。「昨日と今日教えたことはすぐにはできないだろうけど、少しずつ覚えていけば大丈夫だからな?慌てないでゆっくり覚えればいいぞ」
「はい!がんばります!」
タクヤの声が部屋に響いた。
「ははは!まぁ頑張れよ!」
お父さんがそう言って部屋を出た。ドアが閉まった。
「この2日で、少しわかった気がする」
ユウジがゆっくり言った。
「そうだな」とタクヤ。「何かがちょっとだけ見えてきた感じはする」
ぼくもそう思っていた。わかった、というより、輪郭が出てきた、みたいな感覚だった。
「3人で書いたメモ、合わせてマニュアル作ろうぜ!」ユウジが言った。
「そうだね」ぼくは言った。「コンビニでコピーして、それぞれ持っておこう」
「すぐ行こう!」タクヤが立ち上がった。
夕方だったけど、まだ明るかった。
3人で部屋を飛び出した。走りながら、ぼくはなんか変な感じがしていた。うまく言えないんだけど、今まで一人でさわってたギターを、今は3人でやっている。それがただ嬉しいとかじゃなくて、もっとよくわからないものだった。頬に当たる空気が、なんか違う気がした。
コンビニで3枚コピーして、3人で分けた。
ぼくは折りたたんで、ギターケースの外ポケットにしまった。
「今日中にまとめて覚えるぞ!」タクヤが言った。
「ぼくも早速始めるよ」
ユウジが少し神妙な顔をした。
「なぁ、俺さ、今日から最低2時間はギター触るようにしようと思う。ヒロのお父さんが言ってただろ?」
ぼくはユウジを見た。タクヤも向いた。
「ギターは触ってる時間で慣れてくるから、なるべく触ってくれって。抱えることが当たり前になるまでは、上手にはならないって」
「言ってたな」タクヤが拳をにぎった。「俺も毎日触るようにする!」
「みんなそうしよう」ぼくも言った。「毎日抱えよう」
しばらく3人で立っていた。駐車場に車が2台停まっていた。
「ねえ」
ぼくは二人を見た。
「夏休み中に、1曲できるようにしようよ」
「ヒロ、マジか?」
タクヤが少し目を大きくした。
「そのくらいの目標があった方がいいかもな」ユウジがゆっくり言った。「次集まるときに、それぞれ弾きたい曲を調べてきてさ、話し合おうぜ」
「わかった。ぼくも調べてくる」
「俺も調べてくる!」
空が少しずつ橙になっていた。
言い出したのはぼくだった。でも一番びっくりしてたのも、たぶんぼくだったと思う。