晴れた放課後
期末が終わった日の放課後、教室はいつもより騒がしかった。
廊下の窓から差し込む光がほこりをふわふわと照らし、誰かが「やばー終わった!」と叫ぶ声が廊下の向こうまで聞こえていた。
「ねえ、これ見た?」
クラスの友達が、スマホを顔の前にかざして走ってきた。
「リオのツアー発表!夏のやつ!」
「マジ?!」と声が上がって、また別の子がリオのMVを開いた。再生ボタンが押されて、柔らかいイントロが流れ始める。揃いの衣装に身を包んだメンバーたちがステージを横切っていく。
「かわいいんだよねー、この衣装」
「絶対ライブ行きたい」
「この曲ライブで聴いたら絶対泣く」
わたしも「いいね」とつぶやいた。
悪くない、とは思う。メロディーはきれいで、映像も丁寧だ。ただ、前の、あの掻き毟るような感じが、ここにはない。ギターが体に当たってくるような、あの感じ。
——カナも何かやってみたら?
「この衣装グッズで出してほしい」
「絶対欲しい!」
父の声は、笑い声にかき消された。わたしも一緒に笑った。
帰り道は、いつもの五、六人でかたまって歩いた。
前を歩いていた子が振り返って言った。「リオのライブ絶対行こうよ。ツアーのチケット取ろうね!」
「行く行く!」「奏も来るよね?」
「もちろん」と答えた。
笑い声がして、また話が続いていく。わたしも笑い返した。でも、声が少し遅れた気がした。
——カナも何かやってみたら?
鞄の持ち手を、少し強く握り直す。
昇降口の下駄箱まで来ると、グループは自然に解けていった。方向が違う子から順に別れて、最後に残ったのはミキだけだった。
「大丈夫?」
下駄箱の扉を開けながら、ミキが横を向いた。
「何が?」
「なんか、ちょっとぼーっとしてた」
上履きを脱ぎながら、なんとなく視線を落とした。
「……楽器、始めたいかなって、最近思ってて」
声に出してから、少し驚いた。言うつもりはなかったのに。
「え、急に」
「急に、というか。ずっと何となく思ってたんだけど。お父さんにも、なんか先に分かってたみたいで。それが少し悔しかったんだよね」
「……なるほど」
ミキは特に驚いた風もなく、靴の紐を結びながら聞いていた。
「じゃあ、夏休みに行ってみようよ。ケンジさんの店」
「でも」
「近いんでしょ、家から」
「まあ、近いけど」
「受験勉強の息抜きってことで付き合えるぞ」
言葉が続かなくて、「……うん」とだけ答えた。
ミキは「よし」と言って、昇降口の引き戸を押し開けた。外から熱い空気が入ってきて、廊下の冷気と混ざり合った。
わたしは上履きをロッカーに収め、扉を閉めた。
乾いた音が昇降口に短く響いて、消えた。
