賑やかだな
引き戸を開けたら、金属と木材が混ざった匂いがした。
ミキが先に入って、わたしがその後に続いた。思っていたより広い。壁には何本もギターが並んでいて、ショーケースに小さな機材がびっしり入っている。奥に作業台があって、そこだけ蛍光灯が白く明るかった。
ケンジさんが作業台の前で顔を上げた。
「いらっしゃい——あれ、シーさんと来た子じゃない?」
ミキが「はい! 覚えてるんですか?」と言った。
「まぁ、一応商売だからね。名前なんだっけ」
「ミキです」
「ミキちゃんか。シーさんの?」
「姪です」
「そっか」とケンジさんが言って、ぱっと顔が明るくなった。「午後にはシーさんも来るぞ!」
ミキが「え、ほんとに!?」と声を上げた。
わたしは少しだけ、ミキの横顔を見た。
叔父さん。
「シーさん?……来たことあるの?」
「あ、言ってなかったっけ? うん。音楽とか詳しい人でさ。だからここも知ってて」
「……なんで教えてくれなかったの」
「誰かさんしんみりしてたから、言うタイミングなかったんだよね〜」
ミキがニヤニヤした。
「まぁ……ね……」
そのときだった。
引き戸がガラガラと鳴って、三人の男の子が入ってきた。同じ年くらいに見えた。一番前の子がギターケースを手に提げていた。
わたしは一番前の子の方を、なんとなく見た。ギターケース——あの夕方に見たのと、同じ形だ。
……あれ、あの時の。
男の子がふと視線に気づいて、こちらを見た。
「?」
わたしは視線をショーケースに戻した。
「やっっば広い!」と後ろの一人が声を上げた。「ギターこんなに! ケンジさん? 本物?」
「偽物置いてどうするんだ」とケンジさんが言って、三人に笑いが起きた。
「ヒロ、今日は賑やかだな!」
なんか急に賑やかになった、とわたしは思った。店の中に人が増えただけなのに、何かが広がった気がした。
わたしはショーケースの前に立って、中を覗いた。
何に使うのか分からない小さな機械が、ひとつひとつ値段をつけて並んでいる。誰かがここに置いて、誰かがここで選んで、また誰かの手に渡っていく。
「何か探してますか?」
ケンジさんがいつの間にかわたしの横に来ていた。
「あの——何かを始めたいんですけど、何から始めればいいか、まだ分からなくて」
「分からなくて来たのが正解ですよ」
ケンジさんはそう言って、ショーケースの向こうに入った。
どういう意味だろう。
ショーケースを眺めていたら、向こう側からケンジさんが急に聞いた。
「どんな曲聴くの?」
「え? あっ……エアロとか……」
「マジ!? 渋いね〜。エアロなんて、よく知ってるね?」
「父がアルマゲドン、何回も見てるから……」
自分で言いながら、顔が少し熱くなった。学校でこういう話をしたことは、ほとんどない。
「それいいじゃん、色々みてみなよ。気になるのがあったら声かけてちょうだい?」
ケンジさんがにこっとした。
店の中をゆっくり歩いた。
向こうで、男の子たちの声がしていた。
「ヒロのギターっていくらしたんだ?」
「家にあったお父さんのやつだから……」
「マジで? お父さんギター弾くんだ!」
「なになに?」
「お父さん弾くから、何となく気になって……」
「誰のお父さん? ヒロの?」
「……お前は落ち着け!」
笑い声がした。
わたしは壁のギターの方に目を向けた。
何となく気になって。
その言葉が、少し頭に残った。
ミキが男の子たちの方に歩いていくのが見えた。
「君たちもギター弾くの?」
「いや、あの——始めたいなって思って」
「超絶初心者です!」
「私たちと同じだ! よろしくね! ところで何年生?」
「高2」
「そうなんだ! 私たち1つ上だぁ!」
「あっ、うっ、そうなんですね」
さっきまで普通に話していた子が、急に敬語になった。
「お前、言葉おかしいぞ?」
「うっせー!」
笑い声が上がった。ミキの笑い声も混ざってた。
わたしはギターの壁の方を向いたまま、少しだけ口角が上がるのを感じた。
「君はギター持ってるんだ! 何か弾いてよ〜」
ミキの声がした。
