カッコいい
引き戸を開けてから、もうかなり時間が経っていた。
タクヤが「これ何ですか?」とショーケースを指差すたびに、ケンジさんが少しずつ答えていた。ユウジはうなずきながら聞いている。ミキはいつの間にかヒロの隣に立って、何かを話していた。
わたしは一人で店の奥を歩いた。
壁のギターを端から眺める。引き取り値の値段札。作業台の工具。ショーケースの中のこまごまとした機材。何に使うのかわからないものばかりだけど、なんとなく見ていられた。
ときどきミキが来て「これ何だと思う?」と話しかけてくる。二人で考えて、全然わからなくて笑った。
時間がゆっくり動いていた。
ギターの音がした。
振り向くと、ヒロがケースから自分のギターを出していた。ケンジさんがそばで何か確かめてから、うなずいた。
ヒロが静かに弦を押さえた。
シンプルなコードが鳴った。一度、また一度。ゆっくり、丁寧に。
上手いとか下手とかじゃなかった。ただ、音が出ていた。店の中に、それがしずかに広がった。
わたしはそれを聞きながら、壁の方に目を戻した。
「そこらに引っ掛かってるヤツで気になるのある?見た目でいいから」
ケンジさんがいつの間にか隣に来ていた。
わたしはゆっくり壁を歩いた。並んだギターを、端から目で追っていく。どれも似たようなかたちに見えて、よく見るとぜんぶちがう。弦の数も、ボディのかたちも、ネックの太さも。
目が止まった。
「ん〜、これ可愛いかなぁ」
ミントグリーンのギターだった。ツヤのある薄い緑色で、ボディが小さくて丸い。
「フェンダーのムスタングね。コンパクトで弾きやすいよ」
わたしはしばらく眺めた。
「でも可愛すぎるなぁ……」
あごに手を当てて、目線を横に動かした。
「カッコいいのは……こっちかな!」
黒いギターがあった。黒いボディに白いピックガード。ムスタングよりずっとシュッとしたシルエット。
「それはテレキャスターだね。黒に白、いいよね〜」
ケンジさんが立ち上がってこちらに来た。
「エアロ聴く子には、こっちの方が合ってる気がしてたよ」
わたしは少し顔が熱くなった。
「……なんで分かるんですか」
「勘」
ケンジさんが少し口角を上げた。
わたしは思わず少し笑った。
タクヤの声が響いた。ミキが何かに答えた。ヒロのギターがまた鳴った。
窓から差す光が、少し傾いていた。
引き戸がガラガラと鳴った。
