叔父さんの店、行く?
夏休みまであと少しというころ、ユウジとタクヤが部屋に来た。
特に理由はなかった。なんとなくヒマで、なんとなく集まった、という感じ。いつもそういう感じで集まる。なぜこの3人で集まるのかは、たぶん誰もわかってない。ぼくもわかってない。でも、なんか気づいたら3人でいる。
「暑いな」とタクヤが言って、扇風機の前に陣取った。
「そこぼくの場所」とぼくは言った。
「ここが一番風くる」
「だから言ってる」
ユウジが床に寝転がって、天井を見てた。「何もないな」と言った。
「ぼくの部屋だし」
「なんか始めないの、夏休みまでに」
タクヤが扇風機から離れないまま部屋をぐるっと見渡して、止まった。
「ギター?」
部屋の隅、布団の横に立てかけてあるやつ。気づかれた。
「ちょっとやってる」
「え、やってんじゃん」タクヤが立ち上がった。「弾いてよ、弾いてよ」
「うまくないよ」
「いいから」
断れなかった。ぼくはギターを取って、C、G、D、Em7・D。じゃん、じゃん、じゃん、じゃん。コードチェンジのところで少し音が乱れた。でも最後まで弾いた。
「おお」とタクヤが言った。「なんかそれっぽい」
ユウジが起き上がって「何の曲」と聞いた。
「洋楽。えっと——Taylor Swiftの」
「あー、知ってる気がする」とタクヤ。「なんか聞いたことある」
「俺も」とユウジ。
たぶん二人ともよく知らない。でもそういう返しをする。
「俺もなんか始めたい」
タクヤが急に言った。
「三日で飽きる」とユウジが即座に言った。
「飽きないし」
「この前の料理は」
「あれは道具がなかっただけ」
「筋トレは」
「続いてる、一ヶ月」
「三日じゃなかったな」ユウジが少し考えて言った。「一週間だった」
「細かい」
二人のやりとりを聞きながら、ぼくはギターを膝に置いてた。
なんか、言ってみようかな、とぼんやり思った。自分でもよくわからないまま、口が動いた。
「……叔父さんの店、行く?」
ユウジとタクヤが同時にぼくを見た。
二人ともキョトンとした顔をしてた。ぼくがそういうことを言うのが、珍しかったんだと思う。ぼくも少し驚いてた。
「叔父さん?」とタクヤ。
「中古楽器屋やってて。ギターとか、いろいろある」
「え、楽器屋?」タクヤの声が上がった。「どんな店? 広い? 店員さん怖い人いない? ギター以外もある? あ、ドラムとかもある?」
「落ち着け」とユウジが言った。「一個ずつ聞け。ヒロも困ってる」
タクヤが一瞬黙った。
「……で、どんな店なんだ?」
ユウジが真顔で聞いた。
タクヤが指差した。「やっぱ聞きたいんじゃん」
ユウジが「そういう話じゃない」と言ったけど、なんか言い切れてなかった。
ぼくは笑った。
なんか、笑えた。うまく説明できないけど、こういうのがあるから3人で集まるんだと思う。理由はわからないけど。
「行こうよ、夏休みに」とぼくは言った。今度は最初より、ちゃんと言えた気がした。
「行く」とタクヤがすぐ言った。
ユウジが少し間を置いてから、「行く」と言った。
窓の外、夏の光がまだ明るかった。
