賑やかだな
「タクヤ! 今日はやけに早いね?」
改札を出たところで、もう立ってた。待ち合わせの10分前。
「夏休みだもん、有効に時間は使うべきだろ?」
「小学生かよ!」
ユウジの声が笑い混じりになった。
3人で駅前の通りを歩く。タクヤがちょっと前を歩いて、ユウジがその横、ぼくが少し後ろ。
「ケンジさん怖くねーかなぁ……楽器屋なんて行ったことねーからさぁ」
タクヤが半歩減速して言った。夏の光がアスファルトで白く跳ねてた。
「怖かったら、客来ないだろ」とユウジ。「それにヒロが一人で行くくらいなんだから大丈夫に決まってるだろ?」
ぼくは少し考えた。
「……ケンジさんはお父さんの弟なんだ。怖くないよ?」
「え、おじさんじゃん!」タクヤが振り返った。「それ最初から言ってよ」
「言ったっけ」
「言ってない」
たぶんそうだった。
「あそこじゃん? もう誰か来てるなぁ」
タクヤが言って、ぼくも目を向けた。
引き戸の前に、女の子が二人いた。
「女の子だな」とユウジが言った。「ギター弾くのかな」
「そうなのかもね」
それだけだった。理由も事情も知らないけど、そうかもしれなかった。
「超絶初心者だぞ! 緊張する!」
タクヤが引き戸の前でピタッと止まった。
「落ち着け。入るぞ」とユウジ。
「うん……」
ユウジが引き戸を横に引いた。ガラガラと音がして、木材と埃の混じったにおいがした。
ぼくが先に中に入った。
店の奥の方に、さっき外にいた女の子の一人が立っていた。
こっちをじっと見てる。
なんだろう、と思ってそちらを見た。
「?」
女の子は視線をショーケースの方に戻した。
「やっっば広い!」タクヤが声を上げた。「ギターこんなに! けんじさん? 本物?」
「偽物置いてどうするんだ」
カウンターの向こうから声がした。三人で笑った。
ぼくが中に入ると、ケンジさんがこちらを見た。
「ヒロ、今日は賑やかだな!」
「……うん」
なんかうまく言えないけど、それがちょうどよかった。
しばらくして、ユウジが聞いた。
「ヒロのギターっていくらしたんだ?」
「家にあったお父さんのやつだから……」
「マジで? お父さんギター弾くんだ!」
タクヤが割り込んできた。「なになに?」
「お父さん弾くから、何となく気になって……」
「誰のお父さん? ヒロの?」
「……お前は落ち着け!」
ユウジが言って、ぼくも思わず笑った。
お父さんのこと、友達に話したのははじめてだった気がする。大したことは何も言ってないけど、なんかそれでよかった。
