シンプルなコード
「君たちもギター弾くの?」
突然話しかけられた。さっきから店にいた女の子の一人だった。
「いや、あの——始めたいなって思って」とユウジ。
「超絶初心者です!」とタクヤ。
「私たちと同じだ! よろしくね! ところで何年生?」
「高2」
「そうなんだ! 私たち1つ上だぁ!」
「あっ、うっ、そうなんですね」
ユウジが急に敬語になった。
「お前、言葉おかしいぞ?」
「うっせー!」
みんなで笑った。その子もケンジさんも笑ってた。
「君はギター持ってるんだ! 何か弾いてよ〜」
ぼくに向かって言ってた。
ギターケースのことだと思う。入ってくるとき、手に提げてたから。
「……あんまりうまくないけど」
「いいから!」
断れなかった。
ケンジさんがそばに来て、ケースからギターを取り出して少し確かめた。チューニングを直して、うなずいた。
ぼくはギターを受け取って、弦を押さえた。
C。G。D。Em7・D。
ゆっくり、丁寧に。
弾きながら、誰かに聞かせるために弾いたのははじめてかもしれないと思った。
友達の前で弾いたことはある。でもあのときは自分の部屋で、急に弾かされた感じだった。ここは違う。ケンジさんの店で、知らない人もいて、ギターが壁にいっぱい並んでて。
なんか、緊張する場所だった。
でも音は出た。
コードを押さえるたびに、ちゃんと音が出た。上手くはないけど、ちゃんと。
弾き終わったら、静かな感じがした。
「いいじゃん!」とタクヤが言った。
ユウジが「うん」と言った。
ぼくはギターを膝の上に置いたまま、少しの間そのままでいた。
なんかうまく言えないけど、来てよかったと思った。
