明日取りに来い
奥の部屋から店に出ると、タクヤが急に立ち止まった。
「オレ、これが気になってたんです!」
さっき弾いたのとは違う、壁に掛かっている1本のギターを指差した。
おじさんが近づいた。
「これ?」
両手を伸ばして、ヨイショっと、丁寧に下ろした。
ボディを軽く叩いて、弦を指で確かめた。ネックをゆっくり見た。少しの間があった。
「……まぁ、調整するから。明日取りに来い」
「明日!?」タクヤが目を丸くした。
「ミニアンプとシールドも付けといてやるから」
「シールド?」タクヤが首をかしげた。
シーさんがカウンターの脇にあったケーブルを1本拾い上げた。
「ほら、これ。ケーブルのことをシールドって言うんですよ」
「ああ!これ!シールド!」
タクヤが繰り返した。覚えようとしている声だった。
3人でカウンターの前に立った。
「お金、足りそう?」ユウジが聞いた。
「全然余裕」タクヤが言った。「親父が言ってた金額よりも安く済んだ」
「そうなんだ!よかった!」ぼくは言った。
タクヤが少し照れたように笑った。
「ユウジはどうするの?」
ぼくは聞いた。
「うん……少し考えたいんだ」
ユウジが言った。
「ブラックベリー・スモーク……」
それだけ言って、黙った。
しばらく間があった。
「真面目に考えるんだね?」
シーさんがユウジに言った。
「アコギとエレキが1本ずつだから……どうバランスを取ろうかって、でしょ?」
ユウジがコクンと頷いた。
「じゃあ、聞いてみようか」
シーさんがおじさんを見た。「けんじ、PC借りるぞ?」
「おう」
シーさんがカウンターの内側に入って、ノートパソコンを開いた。何かを打ち込んだ。
「ここへ来て」
3人で画面を覗き込んだ。シーさんは少し離れて、ぼくらを見ていた。
音が出た。
3本のギターが重なっていた。それぞれが別のことをやっていた。ぶつからなかった。なのに、ぎゅっとしていた。
タクヤも、ユウジも、ぼくも、黙って見ていた。
おじさんが調整台の上に、さっきタクヤが選んだギターを置いた。ゆっくり確かめながら、作業を続けていた。
「なぁ」
おじさんがシーさんに言った。「たまたまだけど、これならちょうどいいんじゃないか?」
シーさんが振り向いた。
「SGですか。なるほど」
少し間を置いた。
「そうですね、これならスライドなんかも試せそうです。楽しみですね」
だれも動かなかった。
「懐かしいなぁ」
後ろから声がした。おじさんだった。「俺らもこんな時があったよな?」
シーさんが笑った。
「ああ!」